※ 本記事は制度の一般的な紹介です。実際の受給可否・金額は加入状況・年齢・勤続年数等により異なります。正確な内容は日本年金機構・協会けんぽ・加入している健康保険組合等に必ずご確認ください。
医療保険・がん保険・生命保険を検討するとき、多くの人は「もしものときにいくら足りなくなるか」から考えます。 ですがその前提として、会社員・公務員・自営業を問わず、健康保険や厚生年金にはすでに公的な保障が組み込まれています。 この公的保障を知らないまま民間保険で全部を埋めようとすると、必要以上に保険料を払うことになりがちです。 ここでは代表的な3つの制度——高額療養費制度・傷病手当金・遺族年金——を整理します。
① 高額療養費制度:医療費の自己負担には上限がある
医療費の自己負担(3割負担など)は、1ヶ月あたりの上限額を超えた分が払い戻される仕組みになっています。 上限額は年収(正確には標準報酬月額)によって次のように区分されています(2026年8月から適用される70歳未満・5区分)。
| 年収の目安 | 自己負担の上限額(月) | 多数回該当時(4回目以降) |
|---|---|---|
| 〜約370万円 | 61,500円(定額) | 44,400円 |
| 約370万円〜約770万円 | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | 44,400円 |
| 約770万円〜約1,160万円 | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | 93,000円 |
| 約1,160万円〜 | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | 140,100円 |
| 住民税非課税 | 36,900円(定額) | 24,600円 |
たとえば年収500万円程度の人が1ヶ月で100万円の医療費(3割負担で自己負担30万円)がかかった場合でも、 実際の自己負担は「85,800円+(100万円−28.6万円)×1%=約9万円」程度で済みます。 医療費が高額になるほど、自己負担の増え方は緩やかになる設計です。
さらに2つの軽減ルールがあります。
- 多数回該当: 直近12ヶ月以内に4回目以降の該当があると、上限額がさらに下がります。
- 世帯合算: 同一世帯・同一の医療保険に加入する家族の自己負担額を1ヶ月単位で合算でき、合算後が上限を超えた分も支給対象になります。
医療保険は本当に必要?「入院」を軸に考えるで扱った「入院時の自己負担額」を検討する際は、まずこの上限額を差し引いて考える必要があります。
② 傷病手当金:会社員・公務員は、働けない間も収入の約3分の2が出る
病気やケガで仕事を休んだ場合、会社員・公務員が加入する健康保険には傷病手当金という制度があります。
日額 = 支給開始前12ヶ月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2
支給期間は、支給開始日から通算して最大1年6ヶ月です(2022年1月の改正で、途中に出勤して支給されない期間があっても通算1年6ヶ月分までカウントされる仕組みになっています)。
たとえば年収370万円程度の会社員の場合、月収換算は約30.8万円、日額はおよそ6,852円、 1ヶ月(30日)でおよそ20.6万円、最大18ヶ月分で合計およそ370万円が目安になります(標準報酬月額の実際の履歴により変動する概算です)。
重要な注意点は、この制度は健康保険(被用者保険)にのみあり、国民健康保険に加入する自営業・フリーランスには法定の傷病手当金がないことです。 新型コロナウイルス感染症の特例のような例外を除き、多くの市区町村国保でも独自導入はほぼされていません。 つまり働けなくなったときの収入保障は、雇用形態によって最初から非対称です。自営業・フリーランスほど、就業不能への備えを民間の保険や貯蓄で意識的に用意する必要性が相対的に高くなります。
③ 遺族年金:万人に同じ額が出るわけではない
生命保険の必要保障額を考えるとき土台になるのが遺族年金です。ここには見落とされやすい受給要件が2つあります。
遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」だけが対象
子どものいない配偶者には支給されません。 子(18歳になった年度の3月31日まで、障害等級1・2級なら20歳未満)がいる場合のみが対象です。
年金額 = 847,300円 + 子の加算(1人目・2人目 各243,800円、3人目以降 各81,300円)
子1人なら年額約109万円、子2人なら年額約133万円が目安です。
遺族厚生年金は会社員・公務員のみ。自営業・フリーランスは0円
厚生年金に加入していた人(会社員・公務員)が亡くなった場合のみ発生し、国民年金のみに加入する自営業・フリーランスには遺族厚生年金がありません(0円)。
年金額 = 死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分 × 4分の3 (報酬比例部分は平均標準報酬額 ×(5.481÷1,000)× 加入月数。加入月数が300月未満でも300月とみなす最低保証あり)
年収370万円程度・会社員のケースで試算すると、遺族厚生年金はおよそ年38万円が目安になります。 先の子1人の遺族基礎年金(約109万円)と合わせると、合計でおよそ年147万円です。
これが自営業・フリーランスの場合は、遺族厚生年金の0円分だけ受け取れる年金が少なくなります。 生命保険はいくら必要?「遺族に残るお金」から逆算するで必要保障額を計算する際は、この「厚生年金があるかないか」の差が土台の金額を大きく左右します。
まとめ:民間保険で埋めるべきは「公的保障を引いた後の差額」
- 高額療養費制度により、医療費の自己負担には年収に応じた上限がある(多数回該当・世帯合算でさらに軽減)
- 傷病手当金は会社員・公務員のみの制度で、最大1年6ヶ月・収入の約3分の2が出る。自営業・フリーランスには法定給付がない
- 遺族年金は「子の有無」「厚生年金加入者かどうか」で受給額が大きく変わり、万人一律ではない
- 医療保険・生命保険の必要額を考えるときは、まずこれらの公的保障でどこまでカバーされるかを把握し、そこから足りない分だけを民間保険で埋めるのが順序として合理的
自分の公的保障を無料で診断すると、就業形態・年収帯・扶養家族の構成を選ぶだけで、自分が対象になる制度と目安の受給額が確認できます。
参考にした情報
- 厚生労働省保険局「高額療養費制度の見直しについて」(2026年8月〜の自己負担上限額、70歳未満5区分)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」(支給要件・日額の計算式・支給期間の通算化)
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
- 日本年金機構 用語集「報酬比例部分」